頑張り続けた僕が、コーヒーと小説で心を取り戻した日

はじめに:休むことへの「怖さ」とスティグマ
「もう限界かもしれない」
そう感じていても、休職を決断するのは簡単なことではありませんでした。
僕にはADHDがあり、以前ストレス障害で会社を休んだことがあります。
それが周囲から「また休むの?」「ミスしやすい人なんでしょ?」という、見えないレッテル――スティグマにつながるのではないか、という恐怖がありました。
それでも、あのとき僕は「自分が壊れてしまったら元も子もない」と思い、休む決断をしました。
妻の妊娠と、押し寄せる不安
当時、妻は妊娠中。
「これから子どもが生まれるのに、自分が休んでいていいのか」という葛藤もありました。
給料が減ること。
このまま復帰できなかったら新しい部署に異動になるかもしれないこと。
出世レースから外れるかもしれないこと。
転職したくなっても、休職歴がキャリアを狭めるかもしれないこと。
それに、「この程度のストレスで休んでしまっていいのか?」という自己否定の声が、頭の中でずっと鳴っていました。
身体が発した「限界」のサイン
会社へ向かう電車の中で、最寄り駅が近づくたびに動悸がして、駅の階段を上がるのもつらくなりました。
オフィスに入る前には1時間カフェで気持ちを整えないと出社できず、仕事中も「ミスしたらどうしよう」という恐怖が消えませんでした。
家に帰っても、未着手の仕事を思い出して夜遅くに会社へ戻ったり、
日記を書いては“情けない自分”に涙を流したり、
人前で話そうとすると声が出なくなったり……心と体、どちらも限界でした。
信頼できる人の言葉が、休職のきっかけに
会社の信頼できる人事に相談したとき、「休職してもいいんじゃない?」と声をかけてもらいました。
最初は1週間〜2週間だけと思っていましたが、産業医からは「最低1か月は必要」と言われ、主治医からも「もう休みましょう」と背中を押してもらいました。
いざ引継ぎに入ると、自分のミスが次々と見つかって、ただただ苦しかった。
でも、それでも「一度、全部手放そう」と思えたことは、やはり大きな一歩でした。
休職中に気づいた「休むこと」の本当の意味
休職に入った当初は、復職後の“パワーアップ”のためにと、仕事の勉強やキャリアの整理に必死でした。
「せめて何か成果を残さないと、休むことに意味がない」と思っていました。
でも、ある日ふと、東京の渋谷にコーヒーを飲みに出かけたんです。
炎天下、半袖・短パンで向かった有名なカフェで、浅煎りのすっきりしたアイスコーヒーを飲んでいたら、
周囲の人たちがゆったりと笑いながら過ごしている風景が目に飛び込んできました。
「こんな空気、ずっと味わっていなかったな」と思いました。
五感が戻ってきた。自分も、少しずつ戻ってきた。
その日から、コーヒーが好きだと気づいた僕は、渋谷・中目黒・代官山・清澄白河など、様々なカフェを訪れるようになりました。
その町の空気を感じながら、コーヒーを味わう。
いつのまにか「小説も読んでみたい」と思い、本屋で適当に手に取った物語に夢中になりました。
途中から、古いカメラを取り出して、写真を撮りながら街を歩くようにもなりました。
味覚、嗅覚、聴覚、視覚、触覚――
順番に、五感が少しずつ戻ってくるような感覚がありました。
心が潤いはじめて、
美しいものを美しいと思えるようになり、
日常の何気ないことに感動し、
「苦手なことは苦手」と言えるようになった。
そのとき、ようやく「僕は休職に入ったんだ」と、心から実感できたんです。
一件の仕事が思い出させてくれた“仕事の本質”
そんなある日、休職前に開いていた副業アカウント経由で、履歴書添削の依頼が来ました。
「ああ、閉じるのを忘れていたな」と思いながらも、対応することにしました。
普段ならアドバイスだけして終わるところですが、そのときの僕は「この人、どんな思いで依頼してくれたんだろう」と自然と寄り添いたくなっていました。
報酬は高くないけれど、ゆっくりインタビューをして、キャリアの相談まで行い、履歴書を納品しました。
「これで一度挑戦してみます」と言ってもらったとき、気づけば僕は泣いていました。
仕事は昇進やスキルアップのためだけのものじゃない。
「誰かの役に立つこと」こそが、本質だったんだと。
復職してから、今大切にしていること
その出来事を経て、僕は復職しました。
今の僕が大切にしているのは、「自分のスキルで、どう人の役に立てるか」。
給料や評価は、後からついてくるもの。
まずは目の前の人のために、今できることを丁寧にやる。それだけを考えるようになりました。
最後に:いま、頑張りすぎているあなたへ
もし、今この記事を読んでいるあなたが「もう限界かもしれない」と感じているなら。
「休んでいい」と、軽々しく言うことはできません。
僕自身、スティグマや金銭面で本当に悩みましたから。
でも、今の気持ちを誰かに話すことはできますか?
信頼できる誰かがいるなら、隠さずに話してみてほしいです。
休むことは、“壊れる前に立ち止まる勇気”です。
そこから始まる小さな回復の道も、きっと、あなたの人生の一部になります。